2012年8月20日月曜日

書評『「超」入門 失敗の本質~日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』鈴木博毅

最近良く売れている本書。書店で見かけた人も多いのでは。

題名の通り、「失敗の本質~日本軍の組織論的研究」(野中郁次郎他)という名著の入門書としての位置付けで、同書のエッセンスを噛み砕いて現代の日本に適用してみました、といった内容。
 

日本企業には優れた戦略が無い、改良・改善は得意だが大きなイノベーションは不得手、その最たる例がインテルやマイクロソフト、アップル等に負けてきた日本の電機メーカーだ、といった昔から良く聞く話が続くので、さらっと読める。

「失敗の本質」の続編(「失敗の本質~戦場のリーダーシップ篇」)が最近出版されたので再度「失敗の本質」を読み返していることもあり、併せて本書を手に取ってみた。
(ちなみに「失敗の本質」は、第二次大戦の日本軍の6つの作戦の失敗の要因を米軍との比較から分析し組織上の教訓に昇華させた読み応えのある一冊)

もしドラが大ヒットした時にも思ったことでもあるので、今回は、本書のような入門書の功罪について考えてみたい。

先に悪い点を挙げるなら、それは(人によっては)自分の頭で深く考えなくなってしまうことだろう。

入門書を踏まえて原著を読み解き、自分なりの気付きを得ることに価値がある。
それなのに、例えば、本書だけを読んで「失敗の本質」を理解した気になってしまうような事があるかもしれない。
表面だけ舐めてそれ以上は深掘りをしない、そんな思考停止を助長する危険を孕んでいるように思う。

一方、良い点としては、「失敗の本質」のような良書の存在を広くアナウンスしてくれることと、敷居を下げてくれることだと思う。

過去の名著と言えども、書店の入り口に平積みにされるようなことはあまりない。
本書のような本が売れることにより、ライトな読書家層にその存在を知らせ、手に取ってもらう機会を増やすことができる。
そうは言っても、名著は往々にして取っ付きにくい&読みにくい。そこで、入門書が概要を分かりやすく説明してくれれば、実際に読む際の困難を小さくしてくれる。

こうして書いている書評も、入門書よりもさらに気軽な”入口”としての役割を果たせる可能性があると思うし、それを実現できたらとても大きな価値。
そんなアウトプットを目指してゆきたいものです。

2012年8月14日火曜日

書評『日本の歴史をよみなおす』網野善彦

バランスのとれた歴史認識とは何か?が本書における自分の問題意識。

思えば、学校の歴史の教科書で学んだ内容が正しいという事は大前提として位置付けてきた。

教科書で記述されている歴史が通説だとすると、本書で著者が展開する説は通説を覆すもので、最高にエキサイティング。
なかでも最も面白かったのは、実は日本は農業社会ではなかったという説。
通説では、江戸時代以前の日本人の大部分は百姓であり、水田を中心とした農業に基づく均質的な社会を構成していたとされている。

ここで、百姓と言った場合に、ほとんどの人は農民を思い浮かべるだろう。
著者は、百姓=農民という後世の歴史家の決めつけが、農業社会の誤解の根幹であると指摘。実際、当時の百姓には漁民・山民を始めとした多様な職業民が含まれていたことを幾つかの事例から裏付けている。
著者の説では、日本は非農業の色彩の強い多様な社会だった。

他にも、江戸時代の女性の地位は、通説の様に抑圧された低いものではなかったというくだりも興味深い。

 これらの説を正しいと仮定した場合に、通説がまかり通ってきたのはなぜか?と考えてみる。
それは、結局のところ通説が体制にとって有利だったからではないか。
 均質な農業社会という構図は和を尊ぶ精神を、抑圧された女性の地位は女性の社会進出抑止の正当化を国民に植え付ける事ができるだろう。
社会の安定と経済成長を最優先課題とした戦後の日本の産業政策上の要請と符合していると思うのは自分だけか。

もちろん、教科書の歴史が全て誤りだなんて言うつもりはない。
しかし、体制にとって有利な解釈から歴史が描かれるバイアスは意識すべきだと思うし、それがバランスのとれた歴史認識に繋がるのだろう。

書評『ワーク・シフト~孤独と貧困から自由になる働き方の未来図』リンダ・グラットン

ロンドン・ビジネススクール教授(経営組織論)が描く仕事・働き方の将来像。

前段にて職場環境を取り巻く変化(テクノロジーの進化、グローバル化の進展等)を概観し、後段でそれらの変化に対応し自由で創造的な働き方を実現するために必要な“シフト”を提案している。

前段はよくある話なので割愛して、今回は、題名ともなっている3つの“シフト”について紹介したい。

① ゼネラリストからスペシャリストへのシフト:
専門性の確立という考え方自体に新しさはないが、ここでは「連続スペシャリスト」という観点がポイント。
つまり、一つの分野にとどまらず、複数の分野で専門性を獲得しましょう、ということ。
なぜなら、リタイアまでのキャリアの期間の長さと環境変化の速さを考えると、特定分野の専門性が陳腐化する事態に備えることが望ましいから。

②競争から協力へのシフト:
どれだけ専門技能を磨いたとしても、大きなイノベーションを生む良い仕事をするには個人単独では限界がある。
そこで、知的資本(①の専門技能)と人間資本関係の組み合わせが今後ますます重要になるとして、人的ネットワークを3種類に分類。これがなかなか面白い。
(1)ポッセ(同じ志を持つ仲間):
アドバイスや支援を与え合える、信頼関係で結ばれた少人数の仲間。比較的専門分野が近い人とのネットワーク。

(2)ビッグアイデア・クラウド:
多様性に富んだ大規模なコミュニティで、自分の人的ネットワークの外側にいる人(イメージは、友達の友達)。
ポッセはある程度似たタイプの仲間になりがちという限界があり、それを克服して斬新な切り口のアイデアの源となるネットワーク。

(3)自己再生コミュニティ:
くつろいだ時間を共有できる、温かみのある人間関係。仕事の関係というよりも、かなりくだけた友人といったイメージか。

③消費から経験へのシフト:
ここが著者の最も伝えたいポイント。
給料の多さと消費の大きさに仕事の価値を置く考え方を脱却し、仕事を通した充実した経験を価値とする姿勢への転換。
例えば、それ程は稼げないけれど、大きな意義を感じられる仕事や家族と過ごす時間を確保できる働き方を選ぶとする。
それは同時に、選択の代償(広い家には住めなかったりする)を受け入れるということでもあるが、その勇気を持てるか。

本書が優れているのは、表面的なキャリア論・ノウハウではなく、仕事を働き方や人生の「選択」として明確に定義している点にあると思う。

格差の顕在化というテーマが頻繁に取り上げられることや相変わらず大企業志向が根強いことは、給料に代わる仕事の価値感が希薄なことが根底にあるのではないだろうか。

突き詰めてゆくと、豊かさとは何か、の様な哲学的なテーマになってしまうが、職業選択の切り口として本書のような考え方があることが、特に学生や若い人に対してもっとアナウンスされて欲しいと思う。

書評『イノベーションのDNA~破壊的イノベータの5つのスキル』C.クリステンセン他

イノベーションを生み出す能力は、生まれよりも育ち。
本書のエッセンスを一言で言うと、こうなる。
イノベーションは、先天的な能力を備えた人間だけが起こせるのではなく、そのスキルを磨き行動すれば誰にでも起こすことが可能だ、と説く。

こんなに勇気づけられるメッセージも珍しい。
その意味で本書は実は自己啓発本と言えるかもしれない。

イノベーターのジレンマでおなじみのクリステンセン教授らが、世界中のイノベーターや企業幹部を研究し、イノベーションに必要な以下の5つのスキルを抽出。

①関連付ける力(異質なアイデアを結合させる力)
②質問力(本質的な質問を投げかける力)
③発見力(観察から洞察を得る力)
④ネットワーク力(多様な人と交わる力)
⑤実験力(アイデアを試す力)

閃きは机の前でウンウン唸って生まれるのではなく、現実との関わりや人との交わりから刺激を受けて生み出される事がわかる。

なお5つの力は並列の関係ではなく、相乗的な関係。
例えば、ネットワーク力を高めて様々な人間と交流すれば、関連付ける力や発見力も磨かれるのだろう。

対して、日本の経営学者が論じるイノベーターの条件は、『イノベーションの作法』(野中郁次郎他)に詳しい。
以下の5つを挙げ、伊右衛門やヘルシオ等の具体的な事例を交えて紹介している。

①理想主義的プラグマティズム
②場の生成能力
③知のリンクをはる能力
④感情の知
⑤勝負師のカン

イノベーションのDNAの5つのスキルと共通するものも多いが、こちらでは感情やカンなど、より主観的な要素を強調している点が特徴的。
データ分析偏重の傾向を”分析マヒ症候群”と断じ、最終的には生き方(=何がやりたいのか?)の確立こそがイノベーションの条件と説く。
MBAも持ち米国式の経営学に精通している著者なればこそ、この指摘には重みがあると思う。

今回は書評というより紹介になってしまったが、創造や発想のヒントを求める人に薦めたい。どちらも良書なので併せてどうぞ。

書評『菊と刀』R.ベネディクト

米国の文化人類学者による日本人の国民性の研究。

第二次大戦中に米国政府の指示のもと対日占領政策に役立てる目的のために研究を行った経緯がある。
そのため、日本国内でのフィールドワークはなく、専ら日本の書籍や米国の日系人や日本人捕虜へのインタビューを分析材料とした、完全なるアウトサイダーの視点から書かれている点が本書の特徴。

日本人の国民性の本質として著者が挙げているのは、恩、義理、恥の3点。
要約すれば、恥という強制力に基づいた恩の貸借と義理の履行が日本人の行動原理、というのが著者の分析。
それら3点は、程度は変わっても現代の日本でも当てはまるものであり、鋭い。

ここでは、恥について考えてみたい。
著者は、行動規範の観点から、
・米国を”罪の文化”(個人の罪の意識、という内部の視点が行動を規定する)
・日本を”恥の文化”(世間にどう見られるか、という外部の視点が行動を規定する)
と分類している。

”恥の文化”の象徴が横並びであり、出る杭は打たれるの諺通り、個人の突出を認めない横並びが日本社会の特徴だったと思う。

空気を読むという言葉に見られるように、現代でも”恥の文化”の影響力は残っている。
他方で、世代間格差・世代内格差の拡大は個人の横並びを困難にしているし、グローバル競争の激化は企業に横並びをする余裕を奪いつつある。
そう考えると、”恥の文化”も消滅に近づきつつあるのではないか

近年は芸術やスポーツの分野で世界的に卓越した実績を残す若い人間が過去と比べて明らかに増えているが、そのような突出することを恐れない個人はその表れとも思える。

友人が別の書評で、個人にとっての”内なる神”という概念を紹介していた。
”罪の文化”における内なる神は、キリスト教等の宗教上の教え・規範が該当するだろう。

”恥の文化”が消滅した場合に、宗教なき日本人にとっては、何が内なる神になり得るのだろうか?
自己中心いう誤った個人主義の危険を避ける意味でも、ある程度の社外的意義を伴った信念、のようなものが内なる神のヒントになるような気がする。

書評『一勝九敗』、『成功は一日で捨て去れ』柳井正

山口県の紳士服販売店から始まり、直近では連結売上高8千億円超・経常利益1千億円超の企業に成長、2020年には売上高5兆円・経常利益1兆円を目標に掲げるファーストリテイリング。
この2冊を読めば同社の軌跡や柳井社長の経営哲学を理解できる。

経営者・リーダーとしての力強い言葉に満ちていてとても刺激的な内容となっている。
また革新的なイメージが強い同社も大企業病と戦っている内実などが垣間見えて面白いが、ここでは“失敗”に対する考え方について紹介したい。

『一勝九敗』という題名は、FRの歴史は失敗の連続で、それに学んで現在の姿を築き上げてきたことを表しているように読める。
しかし、さすがに勝率10%では企業の存続は危ういようにも思える。では『一勝九敗』は何を意味しているのだろうか?

それは、失敗への感度が高い、ということだと考えた。
つまり、失敗と認識する程度が小さく、認識するタイミングも早いということではないか。
他の企業・人が失敗と捉えていないレベルにおいても、著者は失敗と認識し、原因を見極め軌道修正を図っている。
そのような厳しい態度を、『一勝九敗』という一言が象徴しているように思う。

また、“失敗の質”という概念も面白い。
著者は良い失敗を、失敗の原因が明確で対策を打てば成功につながるものと定義している。
何かに挑戦する限り失敗は避けて通れない。減点主義が幅を利かす日本では、失敗にはネガティブなイメージが付きまとうように思う
質の高い失敗をポジティブに歓迎する態度が、挑戦をし易くする。そしてより多くの挑戦が新たな創造を生み出す。

そんな社会になったら、そんな生き方ができたらどんなに素晴らしいだろう。

最後に、最も心に響いた一節を。
“チャレンジがない仕事は仕事ではありません。チャレンジがない人生は人生ではありません”

2012年7月23日月曜日

書評『種の起源』C.ダーウィン


ご存知ダーウィンの進化論。
内容の一端は知っているつもりでも実際に読んだ事のない古典は数多い。こちらは読みやすい新訳が出ているとの評判で一読。

進化論は1800年代半ばの出版当初としては極めて異端な説だったために、本書は想定される批判への反論を予め記載した緻密な構成が特徴的(それ故に読みにくい)。

進化論のエッセンスをざっくり言うとこうなる。
全ての生物は共通の祖先を持ち、環境変化に応じた変異の蓄積から様々な進化を遂げた結果、現在の多様性を獲得するに至った。
そして進化の過程では、自然淘汰や生物間の限りない生存闘争が繰り広げられている。

ここでは、変異というキーワードに着目したい。
変異とは個体間の形式や特質の違いを言うが、適者生存のルールの下では、適応に有利な変異を蓄積した生物だけが生き残る事ができる。

これを人間や企業に当てはめるとどうなるか?
生存のためには変異が必要だが、環境変化は予測できない場合が多い。
であれば、予め変異を生み出しやすい仕組みを作っておくことが重要なのだと思う。

例えばユニクロの柳井社長は、成功体験は一日で捨てて、またゼロから成功のための方法を考えろと書いていたけど、これは特に変化の激しいアパレル業界で変異を生むために必要なマインドセットだと解釈できる。

個人のレベルでも変異の種蒔きは欠かせない。表面的なスキルではなく深い専門性や、他企業・他部署へもポータブルなスキルの土壌を作っておくと良い収穫を得られる可能性が高まるように思う。