2012年5月22日火曜日

書評『リスク〜神々への反逆』P.バーンスタイン

本書は、人類のリスクへの挑戦の歴史を描いたなかなか壮大な一冊

古代ギリシャにおける数学の発達から確率論の誕生、金融工学のデリバティブ、モダン・ポートフォリオ理論に至るまで、各時代の天才達に焦点を当てて紡ぐ物語。

リスクとはつまるところ将来の不確実性であり、不確実性を定量化して目に見える形で把握するための、先人たちの探求の過程を知ることができる。

原著は1996年に出版されたが、リスクマネジメントの技術の危険性を、


“古いリスクを制御できる一方で新たなリスクを生む可能性がある”

と指摘しており、その先見性に驚かされる。

リーマンショックを導いたサブプライム危機がこれに当たるだろう
金融工学に基づいたリスクの定量化・分散を特徴とする証券化商品によって、結果としてリスクが見えなくなった事が原因だったのだから。

高度なリスクマネジメントを本質とする金融業と、金融業の比重がかつてない程に高まった金融資本主義。
それが世界のリスク・脆弱性を高めた事は大いなる皮肉に思える。

リスクテイクが資本主義の本質のである事は今後も変わらない。
業がリスクを取って事業を行う、金融は黒子としてそのサポートをする役割に回帰できるか。

書評『銃・病原菌・鉄〜1万3000年にわたる人類史の謎』J.ダイアモンド


かつてスペインがインカ帝国を滅ぼし欧州列強国が南米を植民地化したが、その逆が起こらなかったのはなぜか。
これは同時に、現在の世界に生じている富とパワーの地域的な偏在。その理由は何か、という問いでもある。
これらの問いへの答えを1万年を超える人類史から探る壮大な考察

人類は、狩猟採集→食料生産→余剰食料の蓄積→食料生産に従事しない専門職の出現→技術・文字の発達、という文明の発展の階段を上ってきた。

大陸・地域毎の環境の違い(気候、動植物の分布等)が発展の速度を決めたのであって、人種の優劣によるものではない事を豊富なデータから裏付ける。

銃・病原菌・鉄は、スペインがインカ帝国を滅ぼした直接の要因。しかし背景には、それらを南米より早く生み出し得た欧州の有利な環境があった。
そして、大昔の環境の違いが現在の世界のパワーバランスをも決めてしまったのだ。

と、かなりスリリングな検証で今年読んだ中でベストの一冊。

小さな環境の違いが大きな結果の差異を生む、という事には普遍性がある様に思う。
インカ帝国の国王は国の所在地は選べなかった訳だが、個人にとっての環境は所与ではない、という気付きが重要なのだろう。

どの環境に身を置くのが有利か。住まいからキャリアに至るまで、人生のあらゆる局面に適用できるこのテーマ。
現状を是としがちな自分にとっては、もっと戦略的に考える余地があるな。

2012年5月17日木曜日

書評『大震災の後で人生について語るということ』橘玲



どう生きるか、とは常に考えなければならないテーマだが、日々の目先の仕事・生活に忙殺されるとつい優先度が下がってしまいがち
そんな怠惰な自分にとって、本書は考える良いきっかけを与えてくれる。

著者の本はどれも、個人として人生をどう生き抜くか、という思想が一貫していて、好きだ。

こちらは題名の通り、昨年の大震災を踏まえた人生設計を問う。
約すると、前段にて以下の4つの神話への問題提起。(正確には、神話は崩壊したと言い切っている)

①不動産神話:不動産は上がり続ける。持ち家は賃貸よりも得か?
②会社神話:会社は潰れない。大企業での終身雇用を目指すキャリアは今後も有効か?
③円神話:円が最も安全な資産。円資産の保有・運用が今後も安心か?
④国家神話:国家は破綻しない。定年後は年金で暮らす想定は今後も有効か?

後段は人生設計の提言。骨子は専門性獲得の為の人的資本投資と、金融資本投資。

確かに、昨年の大震災は規模と影響において未曾有の大災害である事は疑いない。
しかし、阪神淡路大震災から20年足らず、敗戦からもたかだか70年足らずである事を思えば、あの規模の出来事が今後の人生で起きないと想定する事がいかに高リスクかがわかる。

個人的には、「流動性」が人生のリスク管理の鍵だと考えている。つまり、

①キャリアの流動性:特定の会社に依存しない為のスキル
②資産の流動性:固定資産(家)ではなく、流動資産(投信等)を重視
③思考の流動性:変化に対応できる柔軟な思考回路

リスクに先回りして対応するための日頃の行動だけが自分、そして家族の幸せを守るのだろう。